さて、前編に引き続き、
アンソニー・ホロヴィッツの
ドラマ「ヨルガオ殺人事件」の見どころです。
制作は英国BBC。
ヨルガオ殺人事件は、前作のカササギ殺人事件と同様、
アガサ・クリスティへのオマージュと言われています。
アガサ・クリスティ作品を、ほぼ全て読んでいて、
ヨルガオ殺人事件、カササギ殺人事件の
小説、ドラマなど、関連作品を全てチェックした私が、
今回も独断と偏見で、
クリスティへのオマージュと、超ネタバレを解説します。
前編、後編に分かれています。
前編「あらすじ、見どころ」はこちら↓
https://mystery-fan.net/yorugao-dorama-midokoro-287
1、アンソニー・ホロヴィッツのドラマ「ヨルガオ殺人事件」のネタバレ
1。ネタバレ1、クリスティへのオマージュ、元ネタ小説
ヨルガオ殺人事件。
この作品は、クリスティ作品へのオマージュと言われています。
作中にはたくさんの小ネタがあります。
でも、もっと大きなオマージュが。
あくまで個人の感想ですが、
「ヨルガオ殺人事件」は、クリスティの、
「終わりなき夜に生まれつく」
をモチーフに書かれていると、私は考えています。
「終わりなき夜に生まれつく(小説)」のあらすじは、
主人公である、労働者階級の青年が大金持ちの女性と、
とある不動産の購入を通じて知り合って、結婚する結婚してしばらく経つと、妻が変死、
全財産を主人公が相続しばらくして、互いに支え合ってきた、
主人公と、妻のお世話係の女性は、結婚することを決める実は、主人公と、妻のお世話係の女性は、
もともと恋人同士だった。これは二人が仕組んだ、完全犯罪。
金持ちの女を騙して結婚し、
殺して財産をいただこう、という計画。ついにやったな、俺たち、、、、と思いきや、
妻の管財人から、
新聞に載っていた写真が送られてきている日付は、妻と出会う数年前
写っているのは、夫とお世話係の女性。つまり、死んだ妻の夫と、お世話係の女性は、
旧知の仲だったことは、すでに知られていた。いつかバレると不安になった主人公は、
殺した妻の幻影を見るようになり、
ついには新しい妻を殺してしまう。殺したところで、警察が踏み込んでくる。
この物語は、逮捕後の主人公の手記だった、、、、という結末。
(原作より、引用、要約)
細部は違いますが、ヨルガオ殺人事件とよく似ていますね。
なお、「終わりなき夜に生まれつく」の元になったと言われる、
クリスティの「管理人事件」という短編があります。
これは、「ヨルガオ殺人事件」と同じ入れ子構造なのです。
ここまでくると、脱帽ですね。
アンソニー・ホロヴィッツの、名作、古典を取り込み、
自分の作品へ昇華させる筆力は、見事としか言いようがありません。
おまけに、作中作まで執筆。
推理小説内に登場する、推理小説をも書いているのです。
そして、作中作で、犯人を教えてくれています。
アンソニー・ホロヴィッツの、才能の素晴らしさと、
クリスティ作品への、深い造詣と愛が感じられます。
こんなところが、クリスティファンとしては、楽しいポイントです。
(「終わりなき夜に生まれつく」には、探偵は出てきませんが、ドラマ版では、「ミス・マープルもの」として制作されています。)
2。ネタバレ2、「ヨルガオ」が象徴するもの
ここから先は、ヨルガオ殺人事件の犯人について書いてあります。
読みたくない方はUターン!!
「ヨルガオ」とは、この事件の犯人、エイデンを象徴しています。
(あくまで個人の感想です。)
ヨルガオは、英語ではmoon flowerといい、
夕方から咲き始める白い花です。
月明かりに白く浮かび、
甘い香りを放ち、朝になるとしぼんでしまう。
妖艶で、はかなく美しい、
終わりなき夜に咲いた、徒花。
男娼から成り上がった、
エイデンにぴったりです。
「ヨルガオ殺人事件」の犯人、エイデンの才能は、
「人に好かれること」。
見た目もいいし、魅力もある。というわけで、男娼はそれを活かせる仕事。
でも、それをしたおかげで、不動産の仕事に就くことができて、
結局、お金持ちのセシリーと出会い、結婚することになるのです。悲劇はその後。
男娼だった頃の客、フランク・パリスに結婚式の前に会ってしまい、
男娼だったことをばらされそうになったエイデンは、
フランクを殺してしまう。そして、前科のある他人に罪をなすりつけ、自分は罪を逃れます。
しかし、今度は妻に、フランク殺しの真犯人は自分だと知られ、
妻を殺して埋めます。
このまま殺人犯として捕まれば、死刑?終身刑?
運よくいつか出所できたとして、その後は?
結局、エイデンは、望まぬ人生を送ることを拒否して、
電車に飛び込んで死にます。
「みじめに生まれついた人」の「甘やかな喜び」は短く、
終わりなき夜、生まれつきのみじめな場所へと、堕ちて行きました。
注)「みじめに生まれついた人」「甘やかな喜び」などは、
クリスティの「終わりなき夜に生まれつく」のモチーフとなった、
ウイリアム・ブレイクの詩、「無垢の予兆」から引用しました。
「終わりなき夜に生まれつく」の小説冒頭に載っています。
3。ネタバレ3、格差社会と貧困の悲劇
クリスティの作品を読んでいると、厳然と存在する、
階級社会、格差社会を感じることがあります。
今回、ヨルガオ殺人事件を読んで、
格差社会と貧困が、
殺人事件の原因になっていると感じました。
「ヨルガオ殺人事件」の犯人、エイデンは、肥溜めみたいな場所で育ったと言っていますが、
そんな場所で育った子供は、「恵まれた人生」は送れません。
「いくら自分が特別な存在だって、
まともな人生なんて絶対に送れないこともわかるんだ」
そんな場所です。
それが証拠に、エイデンは、ロンドンに出てきてからも、
時給が安い仕事しか見つからず、
結局、男娼になります。
生まれた場所と、どんな親から生まれたかで、
ほぼその後の人生が決まってしまう。
貧困は世代間連鎖してゆきます。
社会の下層で生まれたら、そこから這い上がらないと、
いい生活は望めません。
social climber(ソーシャルクライマー、成り上がり)
を目指すしかないのです。
上の階層の人々は、下を見下ろして、
自助努力を求めるか、黙ってただ差別するか、無視するか、
どれかです。
日本もあまり変わらないなあ、と、
厳然と存在する格差について、考えてみたりしています。
才能を活かした仕事で、お金が儲かるようになったと言っても、
所詮は夜の仕事。
実家の後ろ盾も、芸能人のような人気もないし、
何より、大っぴらに人には言えない。
ちょっと状況が悪くなったら、助けてくれる人はおらず、
坂を転げ落ちるように、底辺まで落ちてゆきます。
成り上がって手入れたものは、
所詮、自分のものではなく、借り物。
エイデン自身も、わかっていたのではないでしょうか。
金持ちと結婚して、成り上がったけれど、
妻のお金で買われているだけ。
男娼と変わらないと。
しかし、一度いい生活をしたら、
元の「肥溜め」には戻れません。
階級社会に立ち向かい、ちょっとズルして勝ったつもりが、
最後は階級社会に負けるのです。(誰も守ってくれない)
自分を守るつもりの行動(殺人)が、最後は自分を殺します。
このあたり、ホロヴィッツの、
社会に対する冷徹な視線がうかがえて、
そこもまた興味深いと思いました。
2、アンソニー・ホロヴィッツのドラマ「ヨルガオ殺人事件」ネタバレ解説、まとめ
いかがでしたか?
アンソニー・ホロヴィッツ作「ヨルガオ殺人事件」の、
元ネタ作品、犯人、格差社会と貧困が
犯行の背景であることなどについて解説しました。
アンソニー・ホロヴィッツの、
クリスティ作品への愛、造詣の深さはすごく楽しめましたし、
社会への視線が感じられて、考えさせられる作品でした。
以上、アンソニー・ホロヴィッツ作「ヨルガオ殺人事件」、
ネタバレ解説でした。
ではまた!
前編「あらすじ、見どころ」はこちら
https://mystery-fan.net/yorugao-dorama-midokoro-287
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